顧問先向け かんたん解説
「うちの所定労働時間は何時間にすればいい?」「何時から残業になる?」という質問をよくいただきます。ポイントは、法律が決める上限(法定労働時間)と、会社が契約で決める時間(所定労働時間)は別物で、所定は必ず法定の内側に収めること。そして、契約した時間を超えて働いた分が残業として数えられることです。この2点を、図解と条文の根拠付きで整理します。
01 2つの労働時間 02 所定労働時間の決まり方 03 なぜ「週」で管理するのか 04 契約時間を超えたら残業 05 月給制とシーソー 06 月給が毎月同じ理由 07 36協定と残業の上限 08 所定労働時間 OK/NG例 09 変形労働時間制という選択肢 10 よくある質問 11 チェックリスト 12 根拠条文
まずは言葉の整理から。似た言葉ですが、決める人も役割もまったく違います。
| 法定労働時間 | 所定労働時間 | |
|---|---|---|
| 誰が決める | 国(労働基準法) | 会社(就業規則・労働契約) |
| 長さ | 1日8時間・1週40時間が上限 | 会社ごとに違う(法定以下で自由) |
| 役割 | 「これ以上働かせてはいけない」線 | 「この時間働いてもらう」約束 |
| 関係 | 所定労働時間 ≦ 法定労働時間 でなければならない(超える契約はできない) | |
覚え方: 法定労働時間は「国が引いた線」、所定労働時間は「会社が線の内側に描いた枠」。枠は線を越えられません。
※ 常時10人未満の商業・映画演劇業(映画製作を除く)・保健衛生業・接客娯楽業では、特例として週44時間まで認められています(労働基準法施行規則第25条の2第1項)。該当するかどうかは業種と人数で決まりますので、個別にご確認ください。
「始業・終業・休憩」を決めた結果として、所定労働時間が決まります。
所定労働時間は、会社が「何時から何時まで働いてもらうか」を就業規則や労働条件通知書に書くことで決まります。法律は、始業・終業の時刻と休憩時間を書面で示すことを会社に求めており(労働基準法第15条・施行規則第5条)、常時10人以上の会社では就業規則に必ず記載しなければなりません(第89条)。
| 項目 | 例 | ポイント |
|---|---|---|
| 始業時刻 | 9:00 | ここから労働時間が始まる |
| 終業時刻 | 17:30 | ここまでが「契約した時間」 |
| 休憩時間 | 12:00〜13:00(1時間) | 労働時間に含めない |
| 1日の所定労働時間 | 7時間30分 | 17:30 − 9:00 − 休憩1時間。法定8時間の内側 OK |
| 1週の所定労働時間 | 37時間30分(週5日) | 7時間30分 × 5日。法定40時間の内側 OK |
「所定労働時間を超える労働の有無」も明示事項です。 労働条件通知書には、残業があり得るかどうか(「有」「無」)を書く欄があります。残業をお願いする可能性があるなら「有」とし、就業規則にも残業を命じられる根拠を置いておくことが必要です。
月給は月単位なのに、労働時間は週単位。ちぐはぐに見えますが、理由ははっきりしています。
01 で見たとおり、法律の上限は「1日8時間」と「1週40時間」の2本の物差しで決まっています。「1か月○時間まで」という所定労働時間の上限は法律にありません。上限が日と週で引かれている以上、それを守るための所定労働時間も日と週で決めて、週で管理することになります。
「1週40時間を超えたか」は、週ごとに足し上げて初めて分かります。1日7時間30分でも週6日働けば45時間。5時間分は週の上限を超えた法定時間外労働です。
月は28日から31日まで長さが変わるので、「1か月○時間」を基準にすると毎月物差しが変わってしまいます。週なら1年およそ52週、どの週も同じ長さです。
365日 ÷ 7日 ≒ 52.14週 × 40時間 ≒ 年2,085.7時間。1日8時間なら年260日が労働日の上限で、休日は最低105日必要という計算も、週の物差しから出てきます。
合計 37時間30分。週40時間の内側なので、すべて所定労働時間です。
合計 45時間。1日は8時間以内でも、週40時間を超えた 5時間 は法定時間外労働(割増の対象)。この契約はそのままでは結べません。
「週」の区切りはどこか。 就業規則などに定めがなければ、日曜日から土曜日までの暦週で数えるのが行政の取扱いです。シフトの組み方に合わせて「月曜始まり」などにしたい場合は、就業規則に週の起算日を書いておくと管理がぶれません。
よくある誤解: 「月給が月単位だから、労働時間も月で管理すればよい」ではありません。労働時間の物差しは週、賃金の支払い単位は月と分かれています。この2つをつなぐのが 06 で説明する「月平均所定労働時間」です。
残業には2種類あります。「法律の上限まで」と「上限を超えた分」で、賃金の扱いが変わります。
| 区分 | この例での時間帯 | 意味 | 賃金 |
|---|---|---|---|
| 所定労働時間 | 9:00〜17:30(休憩除き7.5h) | 契約で約束した時間 | 通常の賃金(月給に含まれる) |
| 法内残業 | 17:30〜18:00(30分) | 契約は超えたが、法律の上限8時間の内側 | 働いた時間分の賃金は必要。法律上の割増は不要(1.0倍)※ |
| 法定時間外労働 | 18:00〜(8時間超) | 法律の上限を超えた時間 | 25%以上の割増賃金(1.25倍以上)。月60時間超は50%以上 |
※ 法内残業は「割増を払わなくても法律違反ではない」という意味です。就業規則や賃金規程で「所定を超えたら1.25倍」と定めている会社は、その定めに従って支払う必要があります。多くの中小企業では、計算をシンプルにするため所定超えから1.25倍としているケースも見られます。
よくある誤解: 「所定が7時間30分だから、残業は30分までは無料」ではありません。法内残業でも、働いた30分に対する通常の賃金は必ず支払う必要があります。月給制の場合、月給は所定労働時間分の対価なので、所定を超えた時間は別途計算して上乗せします。
割増賃金の対象は「第三十二条(法定労働時間)を超えて延長した時間」です。所定労働時間を超えただけで法定の内側にとどまる時間(法内残業)は、条文上の割増対象に含まれていません。
月給制になると所定労働時間があいまいになりがちです。でも実は、時給制・日給制と同じ物差しで動いています。
時給制は「1時間働いたら○円」、日給制は「1日働いたら○円」。月給制はこれをさらにまとめて、「1か月分の所定労働時間を働いたら○円」と約束したものです。月給は働いた時間を問わない固定額ではなく、所定労働時間分の労働とセットで釣り合っている金額だと考えると、残業代や欠勤控除の意味がすっきりします。
所定労働時間どおり働いた月。月給をそのまま支払う、いちばん基本の形。
契約時間を超えて働いた月。月給でまかなえていない時間を別途精算して釣り合わせる。+ 残業代を上乗せ
欠勤や遅刻早退で契約時間に届かなかった月。働いていない時間の分だけ減額して釣り合わせる。− 欠勤控除
| 状態 | 何が起きたか | 月給の扱い | ひとこと |
|---|---|---|---|
| 釣り合い | 所定労働時間どおり働いた | 月給そのまま | これが基準の姿 |
| 超過 | 所定を超えて働いた(法内残業・法定時間外) | 月給 + 超えた時間分の賃金(法内は1.0倍、法定超は1.25倍以上) | 04 の残業の話は、シーソーの右側を足す作業 |
| 未達 | 欠勤・遅刻・早退で所定に届かなかった | 月給 − 働かなかった時間分(欠勤控除) | 働いていない時間に賃金を払う義務はない(ノーワーク・ノーペイ) |
| 年次有給休暇 | 休んだが、有給休暇を使った | 減額しない | 法律上、賃金を支払う休暇なので「働いた」扱い |
「月給制=時間を数えなくてよい」ではありません。 欠勤した分を減額する月給制は、実務では「日給月給制」と呼ばれることもあります。減額のしかた(1日いくら・1時間いくらで引くか)は法律で決まっていないので、就業規則・賃金規程に計算方法を定めておくことが必要です(労働基準法第89条第2号)。定めがないまま引くとトラブルの元になります。
賃金は「約束した労働」の対価です。働いていない時間には賃金請求権が生じない(ノーワーク・ノーペイ)ので、欠勤分の控除が認められます。
2月は28日、3月は31日。働く日数が違うのに、月給が同じなのはなぜでしょうか。
所定労働時間は「1日7時間30分・1週37時間30分」のように、日と週の単位で決めています。月単位では決めていないので、暦日数や曜日のめぐりで「その月の所定労働日数」は20日の月もあれば22日の月もあります。それでも月給が変わらないのは、月給が「1年間の所定労働時間を12で割った平均」に対する金額として設定されているからです。多い月と少ない月をならして、毎月同じ額で払う約束になっています。
= どの月も同じ月給
1年分の所定労働時間を12等分。150時間の月も165時間の月も、月給は「153.1時間分」として同じ額。
残業代の単価もこの「月平均所定労働時間」で割ります。 法律は、月給制の1時間あたりの賃金を「月給 ÷ 月の所定労働時間数(月によって異なる場合は、1年間の1か月平均所定労働時間数)」と定めています。上の例なら「月給 ÷ 153.1時間」が1時間あたりの単価で、法定時間外はこれに1.25倍以上を掛けます。
欠勤控除の単価は法律に決まりがないため、就業規則・賃金規程で「その月の所定労働日数で割る」「月平均で割る」などの方法を定めて運用します。
よくある誤解: 「所定労働日数が多い月は月給を増やす/少ない月は減らす」は不要です。月給はもともと年間平均で釣り合わせているので、暦日数の変動で月給を動かす必要はありません。動かすのは「契約時間を超えた/届かなかった」ときだけです(05 のシーソー)。
割増賃金の計算基礎となる「通常の労働時間の賃金」を月給から求める方法を定めた条文です。「月によって所定労働時間数が異なる場合には年平均で割る」と明記されており、月給が年間平均の所定労働時間に対応していることの根拠になります。
8時間・40時間の線を越えるには手続きが要ります。そして、越えた先にも上限があります。
法定労働時間はあくまで「上限」なので、そのままでは1分でも超えて働かせると法律違反です。超えて働いてもらう可能性があるなら、従業員の代表と書面で協定(いわゆる36協定)を結び、労働基準監督署へ届け出ておく必要があります。協定を結んでも、残業させられる時間には次の3段階の上限があります。
所定労働時間との関係: ここで数える「残業時間」は法定時間外労働(8時間・40時間を超えた分)です。所定7時間30分の会社で18:00まで働いた30分(法内残業)は、36協定の上限には算入されません。
法定の内側なら自由。上限ちょうどでもOK。超える契約は無効です。
上限の内側。7時間を超えて8時間までは法内残業(割増は法律上不要)、8時間超は割増対象。
上限ちょうど。所定=法定なので、残業はすべて法定時間外労働になり、最初の1分から割増対象。
上限を超える契約はその部分が無効。8時間を超える1時間は法定時間外労働として割増賃金が必要で、36協定も必要。
「契約書に9時間と書いてあるから割増は不要」は通りません。 法律の基準に達しない労働条件は、その部分が無効になり、法律の基準に置き換わります(労働基準法第13条)。法定労働時間を超えて働かせると罰則の対象にもなります(第119条)。
「毎週40時間・毎日8時間」の原則を、一定期間の「平均」で判定できるようにする制度です。
ここまでの原則は「所定は毎週40時間以内・毎日8時間以内」でした。ただ、月末だけ忙しい、夏と冬で仕事量が違う、といった会社では、この原則どおりだと忙しい週の分がすべて残業になります。そこで法律は、就業規則や労使協定であらかじめ各日・各週の労働時間を決めておくことを条件に、一定の期間を平均して週40時間以内に収まっていれば、特定の日に8時間超・特定の週に40時間超の所定を置くことを認めています。「所定 ≦ 法定」の原則が、「平均で 所定 ≦ 法定」に変わるイメージです。
4週の合計 160時間 ÷ 4週 = 平均40時間。あらかじめこのとおり所定を定めておけば、第1週の48時間は残業になりません(定めた所定を超えた分は、通常どおり残業です)。
| 制度 | 平均する期間 | 主な条件 | 向いている会社 |
|---|---|---|---|
| 1か月単位 | 1か月以内 | 就業規則または労使協定で、各日・各週の労働時間をあらかじめ特定(協定の場合は届出) | 月末・月初が忙しい、シフト制の店舗・施設 |
| 1年単位 | 1か月超〜1年 | 労使協定+届出。1日10時間・週52時間・年間労働日280日などの上限あり | 季節で繁閑がある製造・建設・観光 |
| フレックスタイム | 清算期間 3か月以内 | 始業・終業を従業員に委ねる。労使協定(清算期間1か月超は届出) | 自律的に働ける事務・企画職 |
| 1週間単位 | 1週間 | 常時30人未満の小売業・旅館・料理店・飲食店。労使協定+届出、1日10時間まで、前週までに書面で通知 | 日ごとの繁閑が読めない小規模店 |
変形労働時間制でも、これまでの考え方は変わりません。 あらかじめ定めた所定を超えた分は残業(04)、月給は所定労働時間とのシーソー(05)、単価は月平均所定労働時間で割る(06)。変わるのは「上限の判定を期間の平均で行う」という一点だけです。
注意: 各日・各週の所定は事前に決めておく必要があり、忙しくなってから後付けで「今週は48時間の週にする」とはできません。導入には就業規則の改定や労使協定の締結・届出が必要で、割増賃金の計算も複雑になります。自社に合うかどうかは、事前にご相談ください。
顧問先からいただくことの多い質問をまとめました。
Q. 1日7時間なら、週6日働いてもらっても大丈夫?
A. 7時間 × 6日 = 42時間で、週40時間の上限を超えるのでそのままではNGです。「1日8時間以内」と「1週40時間以内」は両方守る必要があります。週6日勤務にするなら1日6時間40分以内にするか、変形労働時間制などの別の仕組みを検討します(09 参照)。
Q. パートの所定労働時間が1日5時間。6時間働いた日の1時間は?
A. 契約の5時間を超えているので残業ですが、8時間の内側なので法内残業です。1時間分の通常の時給は必ず支払います。法律上の割増は不要ですが、就業規則で所定超えに割増を定めていればそれに従います。
Q. 月給制の社員が残業した場合、単価はどう出す?
A. 月給(家族手当・通勤手当など除外できる手当を除く)÷ 1か月平均の所定労働時間(06 の計算例)で1時間あたりの賃金を出し、法内残業は1.0倍、法定時間外は1.25倍以上を掛けます。所定労働時間が短いほど月給を割る時間が小さくなり、1時間あたりの単価は高くなる点に注意してください。
Q. 所定労働時間を7時間30分から8時間に変えたい。
A. 法定の範囲内なので可能ですが、従業員にとっては労働時間が増える不利益な変更にあたります。就業規則の変更手続き(意見聴取・届出・周知)に加え、変更の必要性や賃金の扱いについて丁寧な説明と合意形成が必要です。事前にご相談ください。
次の項目にすべてチェックが付けば、基本の整理はできています。
このページの内容は、すべて以下の法令の原文(e-Gov 法令検索)に基づいています。
| 法令 | 内容 | このページでの使いどころ |
|---|---|---|
| 労働基準法 第32条 | 法定労働時間(1日8時間・1週40時間) | 01・03・08 |
| 労働基準法 第13条 | 法律の基準に達しない契約はその部分が無効 | 08 |
| 労働基準法 第15条・施行規則 第5条 | 労働条件の明示(始業終業・所定超え労働の有無・休憩) | 02 |
| 労働基準法 第89条 | 就業規則の必要記載事項(始業終業・休憩・賃金の計算方法) | 02・05 |
| 昭和63年1月1日 基発第1号 | 「1週間」は別段の定めがなければ日曜〜土曜の暦週 | 03 |
| 労働基準法 第32条の2〜第32条の5・施行規則 第12条の4・第12条の5 | 変形労働時間制(1か月単位・1年単位・フレックス・1週間単位) | 09 |
| 労働基準法 第36条 | 36協定、限度時間(月45h・年360h)、特別条項、絶対上限 | 07 |
| 労働基準法 第37条・割増率の政令 | 割増賃金(時間外25%・休日35%・月60h超50%) | 04 |
| 労働基準法施行規則 第19条 | 月給制の1時間あたり賃金は月給 ÷ 月平均所定労働時間 | 06 |
| 民法 第624条 | 報酬は約束した労働の後に請求できる(ノーワーク・ノーペイ) | 05 |
| 労働基準法 第39条 第9項 | 年次有給休暇には賃金を支払う | 05 |
| 労働基準法施行規則 第25条の2 | 特例事業場(週44時間) | 01 |
| 労働基準法 第119条 | 罰則(6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金) | 08 |
出典: 労働基準法(e-Gov) / 労働基準法施行規則(e-Gov) / 割増賃金率の政令(e-Gov) / 民法(e-Gov)。2026年9月25日時点の条文。